高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族のあゆみ

高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族の記録

高校の卒業式

 合格発表から卒業式までは、本当にあっという間だった。引っ越し先を決め、もろもろの引っ越し準備もあってバタバタしていたせいかもしれない。

  卒業式の当日、彼女には「自分で起きるように」と前もって言ってあった。卒業式の当日まで私が起こし、タクシーを手配し・・・というのは勘弁してほしい。宣言通り、彼女を起こす儀式をせず、自分の身支度だけして彼女を待つ。

 

 なかなか起きてくる気配がない。  

 

 でもじっと待つ。

 

 遅刻しそうな時間になるが、まだ起きてこない。

 

 じりじりしながら、私は待つ。

 

 彼女の目覚まし時計が、大音量で鳴っている。

 

 携帯の音楽も鳴りはじめた。

 

 でも、起きてこない。

 

 目覚まし時計の音と、携帯の音楽が混じり合って

 

 とてつもなく不快な音を放つ。

 

 それが私の神経を逆なでする。

 

 私の中の何かが爆発しそうになったその時、

 

 顔色の悪い娘の顔が、部屋から出てきた。

 

 「タクシーの手配も自分でやってね!私の卒業式ではないんだから!!」

 と怒鳴る私。そして後から何を言ったのか思い出せないほど、

 次から次へと悪態をつく私。「私、どうしてしまったのだろう?」自分でも

 何を怒っているのだか、何がこんなに腹立たしいのか、

 全く分からないのだが、

 自分自身をコントロールできない。

 

 彼女は手早く身支度を済ませ、タクシーを呼ぶ。

 

 二人とも黙ってタクシーに乗り込む。車内で不自然に黙り込む二人の客を

 

 運転手さんが、いぶかしげにバックミラーで覗き込む気配。

 

 何でだろう?今までにないほどイライラするのを私は抑えることができない。

 

 タクシーを降りるや否や、彼女が私に向かってこう言った。

 

 

 「おかあさん、あれだけ言ったら、スッキリしたでしょ?」

 

 力が抜け、笑いが止まらなくなった。

 二人して笑い転げる。涙を流して笑い転げる。

 

 卒業式後の、ホームルームでの一人一人のスピーチで、みゆきが

 「友人たちや、先生方、母のサポートなしには卒業することができませんでした」

 と挨拶したが、私にとって彼女の卒業を実感したのは、その挨拶の言葉ではない。

 

 タクシーを降りて言ったあの一言、

 「おかあさん、あれだけ言ったら、スッキリしたでしょ?」

 この一言の方だ。

 

 あんなに苦しい思いをしたのに

 

 こうして、卒業できたんだ。