高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族のあゆみ

高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族の記録

みゆきと祖母

 みゆきが帰省すると、限られた時間しかなくても私の母に会いに行くのが彼女の中での決まりだ。今は母が近くの有料老人ホームに入ったので、とても会いやすくなった。今回は少しまとまった時間があったので一緒にランチをすることに。でもひいきにしていたカフェがのきなみ無くなってしまって、今回はものすごくイレギュラーなランチをすることに(笑)母が好きなのは、パンとピザ、そして果物。「パンやピザを先に食べてしまったら、パフェはお腹いっぱいになって食べられなくなるから」とみゆき。なので食事より先にフルーツパフェを食べることに。確かにそうだ。母もそのアイデアを大絶賛。大きな桃のパフェを、まずは、私も加わって3人でシェア。それからお総菜屋さんで3人が食べたいものをそれぞれ買って、母の施設に戻ってランチを食べた。

 母が選んだのは、宣言通りパンを何種類か。みゆきの選んだのは意外にもお魚のカルパッチョ。日頃どうしてもお魚不足になるかららしい。私はローストビーフと天むすを選んだ。「乙女3人分には少し多いのでは?」とみゆきは笑ったが、なんのなんの、母が良く食べる。母を中心に(笑)ぺろりと全部平らげて、昔話に花が咲いた。

 みゆきが小さい頃、母の住んでいた田舎で小さなアマガエルを取ってほしいとせがんだことに話が及んだ。「バアバがいっぱい捕まえてくれて、大きな瓶に入れて鑑賞したよね」とみゆき。「今の私はアマガエルを手づかみするなんて、無理だわ。お母さんも無理でしょ?」と彼女。確かにいくら孫のためとはいえ、私には断じて無理だ。そもそも、孫ってかわいいと思えるのかどうか、実は私には自信がない。我が子より愛おしいと思える対象が新たに生まれるとはとうてい信じがたい。小さき生き物は、総じて何でもかわいらしいとは思うが、我が子に対するような愛おしさというのは生れるのだろうか?

 昔話に花を咲かせている最中に、母から衝撃の一言。「私って病気だったの?何の病気だったの?」思わずみゆきと顔を見合わせて絶句する。そこでみゆきがすかさずフォロー「今、元気なんだから病気だった頃のことは、思い出さなくていいんじゃない?楽しい未来のことを考えましょう」

 鬱から生還して以来、認知機能も低下していない母。しかし、鬱で苦しんでいた去年のことはスッポリと記憶が抜け落ちてているのかもしれない。なるほど、これはみゆきと同じだ。彼女の高校時代の記憶はほぼない。小学校へ上がる前のアマガエルのことは鮮明に覚えているというのに。人には、悪い記憶を消して自己防衛する習性があるらしい。