高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族のあゆみ

高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族の記録

義母の優先順位

 義母の生活全般の中の優先順位の一番は、常に髪をキチンと整えておくこと。義母のお姑さんも常に髪をキチンと整えている人だったらしい。一家で農家をしていたという義母のお姑さん、お台所仕事は苦手で、そちらの方は若い頃から義母に任せきりで、野良仕事を夜明けから日暮れまで頑張っていた、無類の働き者だったらしい。その働き者のお姑さんの、髪型はいつ見ても同じ。常に綺麗に整えられていたらしいのだ。年を取ってからも髪の生え際に白髪がのぞいていたり、寝ぐせで乱れているのも一度も見たことがないほどだったと言うからすごい。

 姑を見習ってなのか義母も髪はいつもきれいにしている人だ。2か月に一度、必ず行きつけの美容院で染髪しパーマをあてる。車の運転ができなくなってからも、そのペースは変わっていない。密かに、私は義母の美容院のペースを記録して、できるだけペースを守れるよう気を付けてきた。いつもは美容院に行きたがる時期を見計らって声をかけ、同伴していた。ところが、今回に限って来月息子の結婚式があるので、前回との間隔が3ヶ月になってしまうけれど、結婚式直前に行く方が合理的かな、と勝手に思い込んで、美容院への声掛けを意図的にしないでいた。そしたら、意外なことが…

 突然義父が我家にやって来て、「明日9時に、お母さんの美容院を予約したから明日の朝のタクシー予約をしておいて」と言うのだ。驚いた。そして動揺した。早めに「今回は来月結婚式があるので、間隔が少し長くなるけれど来月初めに美容院へ行きましょうか」と何で予め相談しておかなかったのだろう。慌てた。その日は、私の2年前に手術した尿路結石のフォローアップ検査の予約日。一瞬、病院の予約を取り消そうかとも思った。しかし、私の病院の予約の方が先約だ。思い直して、タクシー予約の電話をすることに。最近はタクシーの数が減って、事前予約が取りづらくなっているので、もし予約できなければ、美容院の予約の方を変更してもらって私の行ける日に、変えてもらおうと決めた。そしたら、これも意外なことにタクシーの予約が取れたのだ。予約が取れてしまってから、急に不安になって、タクシー会社に再び電話をして、義母が認知症であることを告げ、行き先の詳細を伝えた。しかし、よく考えたら行きのタクシーよりも帰りのタクシーの方がハードルが高いことに思い当たる。行きは美容院の名前が分かっているので、難しくないが、帰りは自分の住所を言わなくてはいけない。それが果たして今の義母にできるだろうか?馴染の道を通っていても「今、どこを走っているのか見当もつかないよ。今車を降ろされたりしたら、一巻の終わりだ」とよく口にする義母だ。義母をドライブの途中車から降ろすなんてこと、決してしないことを義母も分かっているだろうに、そんなことを口にするのは、よほどそんなことが起こったら怖いのだ。

 病院の検査が早く終われば、私が美容院へ迎えに行ける。しかし、総合病院の待ち時間は思った以上に長い。美容院の方が気を利かせて「終わったけど、迎えに来れる?」と電話をして下さったが、残念なことに間に合わないと伝えたら「じゃあタクシーを呼びますね」と言って下さった。病院で周囲を気にしながら小声で出た電話だったので、住所など詳細を伝えることができず焦ったが、病院から帰ってお隣を訪ねると、綺麗になってご機嫌の義母の笑顔。心底ほっとした。

 私自身は容姿に全く無頓着。私の母もそうだ。お化粧もしないし、髪は短く整えてあればそれでいい。白髪も多くなったが、一度も染めたことがない。暑苦しいのは嫌だけれど、別にどこで切っても平気。なので家から一番近い美容院へ行く。義母も車で20~30分の美容院を諦めて、歩いてでも行ける、私がお世話になっている美容院へ行ってくれたら、合理的だけど、義母にとって大切なこだわりを捨ててほしいとは思わない。ただ、この先私が運転できなくなったらどうなるのかな?と心配になることはある。

 でも、その時はその時か。いちいち先回りして心配するのはやめておこう。義母が強硬手段を使って、自分で美容院を予約してタクシーで行くことになったことも、ものすごく驚きはしたが、このことで「早く気づいてあげてたら」と自分自身を責めるのもやめておこうと思う。ちゃんと義母は自分で帰って来られたのだし。認知症の義母、私たちが干渉しすぎないことが、病気を遅らせる秘訣なのかもしれないとすら思える。‘先回りで、義母の可能性をつぶさないこと‘-これが新たな私の目標だ。