高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族のあゆみ

高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族の記録

認知症の義母を散歩に連れ出す

 認知症外来でも、内科でも歩くのは大切だと耳にタコができるくらい言われている。外来で必ず最初に聞かれるのが「ちゃんと散歩していますか?」だ。けれど、暑い中の散歩は、熱中症が心配だし、同伴する側もしんどい。やっと涼しくなったので、義母を散歩に誘った。実は、散歩に誘うのは外を歩けるくらい涼しくなって今日で4度目。「散歩に行きましょう」と誘っても「今日は頭が痛い」とか「足が痛い」となかなか乗ってくれないので、週末にかけて食料のストックが少なくなる頃に「買物に行こう」と誘ってみたら、大正解。私の車の運転で、なじみのスーパーに行けると思ったらしく、大きな買い物袋を3つも持って、いそいそと出て来た。

 「ごめんなさい、私は車に乗れないので、歩きで近くのスーパーへ行きましょう」と言うと、少し顔が曇ったが、観念したのか、渋々と歩き始めた。一緒に歩いてみると、今まで気づかなかった色々なことがわかって来る。歩く速度が、以前に比べて極端に遅くなっている。できるだけ義母に合わせて、ゆっくりを心がけるが、ついついペースが速くなって「あなた、足長いから歩くの速いね」と言われ、ペースを落とすことが何度も。脳の障害で体のバランスが悪いせいで、よく魚の目ができるという義母だが、歩いているときのバランスは気になるほど悪くはなさそうだ。最近、とても調子が良いと思っていた義母だが、同じことは何度も言う。出がけに電話した美容院の予約がいつだったかを、行き返り合わせると8度、聞かれた。私はそのつど初めて聞いたふりをして答えるが、一緒に寝起きを共にしている義父はきっと、この何度もの繰り返しに、頭を悩ませているに違いない。何度も聞くのは、きっと大事なこと、気になっていることだからだと思う。でも、「これを決して忘れないようにしないといけない」と思っているなら、気を張り詰めすぎて疲れてしまうだろうと気になって、話を逸らそうと違う話題を持ちかけてみるが、必ず元の美容院の話題。この美容院へは、とても長い間通っていると聞いているので、どうしてそこへ行くようになったのか、馴れ初めを聞こうとするが「何でだったか、覚えてない。で、予約はあなたが取ってくれたんでしょ?いつだったっけ?それで、何時だった?こんな散歩なんかしていて間に合うの?」と必ず行き先はその話題。認知症の方がとても疲れるのは、きっと”覚えておかねばならないと思う何か”を必死で覚えておこうとするからなのだろう。「ちゃんとお母様のカレンダーに書いたし、私も手帳に書き留めたから、忘れてしまって良いのよ」と何度繰り返しても、この思いはとうてい届きそうにない。

 今日は明後日の買物までのつなぎの買物だから、今日と明日の分だけ買物しようと約束したが、日頃、一週間分の買物に慣れている義母。ある程度の荷物は覚悟してリュックを担いで行ったが、私のリュックには到底入りきらず、結局リュックの他にも両手に荷物を持つことに。日頃の買物の前日では、「明日買物に行くから大丈夫」と断られそうで、2日前にしたが、次回は前日に誘うことにしよう。そして義母用のリュックも調達しなければ。

 義母にとってどうだったかは、知る由もないが、結局、この大荷物を持っての散歩は、閉じこもってばかりだった私には、とても良い運動の機会になった。外の空気をすって、気分は晴れやかだ。義母もそう感じてくれていると良いのだが。始終一緒にいる義父と離れる時間ができて、義父にとっても良い気分転換になっていると嬉しい。