高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族のあゆみ

高校生で起立性調節障害を発症した娘と家族の記録

応援3日目

 この日は早朝4時から動き回る母。「庭の排水が気になる」と血相を変えて暗い庭に出て行こうとするのを、「転んで骨折でもしたら大変だから」と必死で止めること数十回。しかし、食事の支度をしたり、後片付けをしているすきに、こっそり静かに、信じられない速さで見つからないように、私の目を盗む母。とても老人の動きとは思えないような、鋭さ、身軽さ。この時、日頃は用心して必ず身に着けている杖すら持っていない。興奮状態の母、いつもは難聴気味なのに、とても聴力が際立っているのが不思議だ。小さな物音に過敏に反応するし、電話で様子を報告するこそこそ話さえ聞こえているのが不思議だ。勘も鋭い。外に出ないように、靴をいつもとは違う見えないところに隠したら、「あなた、靴を隠したわね」とすぐに気づく鋭さ。

 この日の母は、目に見えるすべてが不安の種。”庭木の大きさが、電線に触れるのではないか”、”排水が詰まるのではないか”、”コンポストが溢れるのではないか”…と延々と不安の種を探している感じ。不安に耐えられなくなり、庭木の剪定を頼む電話をし、水道工事会社に排水の工事見積の電話をし、次々とやってくる工事会社の人々に「早々に工事をしていただかないと困る」と訴えている。明らかに認知機能の衰えている人の行動ではない。

 不安で不安でたまらず、母が電話したのは、工事関係の人だけではなかった。スキをついて私の従姉にも電話していた。彼女は隣県に住んでいる。母が一番近しくしている可愛い姪っ子。「助けて!」の、ただならぬ電話に、わけも聞かず、高速道路を飛ばして2時間もかからずに、飛んできてくれた。

 従姉は介護の仕事をしている人。母に付き添う姿が、親切で、落ち着いていて、辛抱強い。「そうだね、心配だよね」を繰り返す。「転ぶといけないから、そんなことをしては駄目だよ」とは言わない。「少しだけゆっくり行こうね」と言う。

 従姉の提案で、午後は気持ちの良いドライブをして、オープンカフェで抹茶ソフトを食べた。抹茶ソフトは私の大好物なのに、味がしない。母は「美味しいね」と破顔一笑。あの怖い顔はどこへ行ったの?ドライブから帰って、「明日は仕事だから」と帰ってしまう従姉。「無理しちゃだめだよ、応援が必要な時は電話してくれたら、またいつでも飛んでくるからね」とは、言ってくれたが、帰っちゃうんだね。そうだよね。仕事だものね。わかっているけど、切ない。